機動力で築いた信頼|少数精鋭による質重視路線|地に足が付いた堅実な経営|北村建設|白山市美川
木材販売業からスタートし、1980年代半ばに総合建設業に脱皮した北村建設は、地域に密着しながら、住宅、商業施設、社屋・工場、公共施設など手広く建築・リフォームを手掛けるとともに、工場などのメンテナンス業務にも注力してきた。持ち前の機動力で築いた信頼を背景に顧客が増えているが、規模よりも質を重視し、少数精鋭で堅実な経営を貫く構えだ。
おしゃれなデザインの新社屋
旧社屋の隣に北村建設の新社屋が完成したのは2023年2月のことだ。一見、2階建てだが、全体がワンフロアの吹き抜けになっており、高低2段の透明ガラス窓越しに天井や柱が覗く外観は開放的な印象を与える。夜は床からのライトアップで柱などが鮮やかに浮かび上がり、まるでブティックかインテリアショップのよう。
北村達也社長は「当初は機能本位の平屋造りを考えていたのですが、提携している女性設計家のアイデアで、おしゃれでソフトなデザインに仕上がりました。来客が入りやすい雰囲気ですし、明るくゆとりのある空間は快適で働きやすいと社員も満足しています」と目を細める。
先代の父・久吉氏(現代表取締役会長)が創業した木材店を総合建設業へと導き、2000年から経営トップに就いている北村社長だが、長男の康平氏(現取締役)が関西の鉄道会社に就職し、跡を継ぐそぶりが見られなかったため、還暦が近づいたころから事業承継に悩み始めたという。そんな矢先の2018年、思いがけず康平氏が自ら志願してUターン入社して、承継問題が一気に解決した。
「安堵すると同時に、スムーズなバトンタッチに向けて動かなければと思い、顧客回りに息子を同行させるなど特訓を開始しました。新社屋建設を決断したのも、若手女性設計家の提案を採用したのも、数年後の世代交代を見据えた環境整備の一環です」(北村社長)
小さな案件にも全力投球
北村建設は地域に密着しながら住宅、店舗・医院などの商業系施設、社屋・工場、公共施設など手広く建設・リフォーム事業を展開してきた。子会社の株式会社ハウズで不動産も扱い、連携プレーで相乗効果を発揮している。
並行して、積水樹脂や大日本インキ化学工業をはじめとする社屋・工場のメンテナンス事業にも注力しており、不具合があればすぐに駆け付けて対応する小回りのきいたサービスで信頼を築いてきた。ほぼ専従で担当者を張り付けるほど密接な関係が続いている顧客もある。
その結果、顧客からの発注だけでなく、顧客の紹介による新築・改築・増築案件も少なからず舞い込むようになった。メンテナンス業務が営業担当者の役割も担っているわけで、満足度の高い業務提供を大きな仕事につなげる「信頼優先型営業」とも言えるだろう。小さな修繕案件でも絶対に手を抜かず、全力で対応するのもそのためだ。
実際、最近も浴場修繕を足がかりに、愛知、三重、富山などで十数カ所の温泉旅館を運営する経営体の施設改装工事を複数受注した。もちろん、専門的ノウハウが必要とされる温泉浴場の設計・施工に強い社員を擁しているからだが、最初の小規模案件でしっかり信用を得た波及効果と言える。
古民家再生でまちおこしも
新しいアクションとして注目されるのは、JR美川駅周辺の古民家をゲストハウスに再生し、外国人を中心に観光誘客につなげる「B&BMIKAWA」プロジェクトへの参画だ。かつて医院だった築90年の建物をリノベーションした宿泊施設を皮切りに、一棟貸しや新築ヴィラタイプも含め、すでに5施設(計約30室)が運営されている。
金沢から電車で約分のアクセスの良さをベースに、日本海に沈む夕日をはじめとする美しい自然や、ふぐの子などのユニークな食文化、「おかえり祭り」などの伝統文化、さらには釣りやサイクリングなどのアクティビティープログラムをアピールしており、コロナ禍の一段落以降、利用が増えているという。
美川商工会長も務める北村社長は「空き家や古民家の活用と交流人口拡大を図れる一石二鳥の取り組みであり、美川地区のまちおこしにつながる」と期待を寄せる。
「ありがとう」を大切に
北村建設には1級建築士・1級建築施工管理技士が人、2級建築士・2級建築施工管理技士が3人もいるが、それに満足せず、社員の資格取得を強力に後押ししている。資格取得者の多さが仕事の質や信頼を高めるだけでなく、資格取得に向けた勉強や経験知の集積が社員の成長を促すと考えているからだ。すでに宅地建物取引主任者資格を持つ康平氏も、次はもちろん建築士を目指している。
もう一つ、北村社長が特に大切にしているのは、「ありがとう」という言葉だ。仕事をいただければ「ありがとう」と感謝するのは当然だが、良い仕事をすれば客先からも「ありがとう」が返ってくる。「ありがとう」が日常的に飛び交う職場なら、仲良く、前向きに仕事ができるはずだ。北村社長は「社内外とも、お互いに『ありがとう』と言える関係を築くことこそ、信頼感を醸成する源です」と強調する。
社員10人、年商約5億円の北村建設は決して大きな会社ではない。今後も規模より仕事の質を高めることを重視しながら、少数精鋭の地域密着型企業として歩むのが北村社長の基本方針だ。
「欲張って拡大路線に走れば無理が生じて、仕事のミスを招きます。お客様に迷惑がかかれば、長年かけて築き上げた信頼も吹き飛んでしまいます。背伸びせず、身の丈に合った経営で、社員が安心して意欲的に働ける会社であることが肝要だと思っています」(北村社長)
とはいえ、若かりし北村社長が大胆な業種転換を成し遂げて社業を発展させたように、数年後には3代目経営者に就く康平氏も、新たなビジョンや戦略を打ち出さないとは限らない。社会やビジネス環境が急速に変化している以上、むしろ必然かもしれない。
創業60周年を迎える4年後、あるいは北村建設設立40周年を迎える7年後、社はどのような姿になっているのだろうか。それを占う上でも、世代交代への過渡期における次の一手が注目される。
北村建設株式会社の詳細情報はこちらからご覧ください